記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2021/10/4
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
味噌汁は健康づくりに役立ちますが、塩分量が気になるメニューでもあります。日本人は世界のなかでも塩分摂取量が多い人種であり、高血圧予防の側面からも減塩が重要視されています。ただ、味噌汁は本当に高血圧の原因になるのでしょうか。
今回は、味噌汁と健康の関係性と、今日からできる減塩のコツを解説しますので、生活習慣病予防の参考にしてください。
味噌汁の始まりには諸説ありますが、中国から来た僧の影響で鎌倉時代にすり鉢が使われるようになり、粒味噌をすり鉢ですりつぶしたところ溶けやすかったことから、味噌汁にして飲むようになったことが由来といわれています。
戦国時代には、味噌で煮込んだ芋がら縄(ずいき:里芋の葉柄で作った縄)をちぎって熱湯で戻したり、味噌玉をお湯で溶かして芋がら縄やほかの具材と煮込んだりして作った味噌汁を、陣中食として食べていたと伝えられています。
味噌は、保存食や保存用の調味料として広がった経緯がありますが、大豆の発酵食品ということもあり栄養の面でもすぐれています。
発酵食品である味噌には、原料である大豆のたんぱく質が分解されたアミノ酸が豊富に含まれています。アミノ酸以外では、食物繊維、ビタミンB群、ビタミンE、ミネラル類も豊富です。
また、味噌は乳酸菌などの善玉菌を豊富に含む「プロバイオティクス」です。プロバイオティクスは腸内環境の改善に役立ちます。
乳酸菌は熱に弱いので、味噌汁にするとプロバイオティクスとして働きにくくなりますが、腸内の善玉菌のエサになることで腸内環境を改善する「プレバイオティクス」として役立ちます。なお、冷や汁などの「冷たい味噌汁」は、プロバイオティクスとしても働く可能性があります。
味噌汁は野菜、豆腐、海藻、肉、魚介類などさまざまな食材と組み合わせやすいことから、栄養バランスが整えやすいというメリットもあります。水分と電解質を補給できるので、熱中症の予防に役立つこともあります。
1日1杯〜3杯程度であれば、味噌汁の長期摂取は高血圧の発症には影響せず、1日1杯の味噌汁の摂取ではCAVI値(動脈の硬さの指標値)が低下する傾向が確認されています。このような結果が出たのは以下が原因と考えられていますが、明確なことはわかっていません。
味噌汁にはある程度の健康効果が期待できることは事実ですが、味噌汁に含まれる塩分は、そのまますべて塩分として吸収されることになります。味噌汁を飲むだけで余分な塩分をすべて排泄できるわけではありませんし、高血圧が劇的に改善するわけでもありません。
味噌汁を飲むことを極端に気にする必要はありませんが、高血圧予防のためには「味噌汁に使う味噌の量」に配慮する必要はあるでしょう。
※病気の治療などで、すでに医師から食事制限を指示されている場合は、必ずその指示に従ってください。
[参考]
味噌に含まれる各種機能性成分の解明(2019年)
習慣的味噌汁摂取の抗高血圧作用の機序(2014年)
味噌汁1杯に含まれる塩分量は、減塩でないインスタント味噌汁で2.0g程度、減塩タイプのインスタント味噌汁で1.2g程度といわれています。減塩タイプに変更することで1杯につき0.8g程度の減塩ができることになりますが、1日1杯飲む前提で考えると、そこまで減塩の役には立たないように感じるかもしれません。
日本人の食事摂取基準(2020年版)で厚生労働省が推奨している1日の塩分の摂取量の目安は、男性7.5g未満、女性6.5g未満です。1日3杯飲むと考えれば、減塩タイプに変更するだけで2.4gの減塩になります。1杯だけ飲む場合であっても、味噌汁だけで0.8g減塩できることは、献立を考えるうえで大きな助けになるはずです。
ちなみに、2.4gの塩分量は、全国チェーンのファミレスのガーリックライス、カレー専門チェーンのチーズカレー(ハーフサイズ)に含まれる塩分量と同程度です。食事を楽しみながら減塩を成功させるためには、このような「ちょっとした工夫」の積み重ねが大切になってきます。
減塩を成功させるには、以下の工夫を取り入れて味噌汁の塩分量を減らしましょう
上記で説明したように、通常のインスタント味噌汁と減塩タイプのインスタント味噌汁では、塩分量が0.8g程度違います。減塩タイプの味噌は、商品により塩分カット率が違いますが、一般的には15%〜30%程度の減塩が可能です(50%〜70%塩分をカットしている味噌もある)。
だし用の煮干しやかつお節、だしの素、味噌汁の具にも減塩タイプや無塩タイプがあります。最近の減塩タイプの商品は、自然な味わいのものが多いので、血圧が高めの人は積極的に取り入れることをおすすめします。
※減塩タイプの調味料のなかには、ナトリウム塩(塩化ナトリウム)をカリウム塩(塩化カリウム)におきかえているものがあります。腎機能低下などでカリウム制限されている人など、食事制限を指示されている場合は、必ず医師に相談し、許可を得てから使用するようにしましょう。
味噌汁1杯に使う味噌の量は、だし汁180ml〜200mlに対し小さじ2杯〜大さじ1杯半程度としているレシピが多いですが、味噌汁の量を減らせば、簡単に使用する味噌の量を減らせます。
減塩するときは、味噌汁1杯をだし汁120ml、味噌を大さじ2分の1で作るようにしましょう。こぶりなお椀を使うと、量を減らしても見栄えが悪くなりません。
日本人は塩味が強い味付けになりやすいです。味噌を目分量で入れると、少しずつ量が増えていくことが多く、なかなか塩分摂取量を減らせません。
味噌は必ず計量スプーンで測り、だし汁も計量カップで測るようにしてください。
味噌汁は、しっかりと「だし」をとって作ると旨味が増すので、味噌の量を減らしても美味しく仕上がります。
減塩のために味噌をただ減らすだけだと、ものたりない味の味噌汁になりやすいです。美味しくない食事は人生の楽しみを奪うことになりますし、減塩も長続きしません。
味噌汁のだしには、かつお節、昆布、煮干し、シイタケ、あごだし(トビウオのだし)などが使えます。気分にあわせて使い分けてもいいですし、組み合わせてもかまいません。自分の好みの「だしの組み合わせ」を探してみてください。
だしをとる時間がない場合は、だしの素を使ってもかまいませんが、必ず減塩タイプか無塩タイプのものを使うようにしましょう。
なお、旨味成分であるグルタミン酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウムなどは、「ナトリウム塩」としてうま味調味料に使われていますが、旨味成分のナトリウム塩は、食塩と比較するとナトリウム量が5%〜10%であるため、通常量の使用であれば問題はないとされています。
コクや旨味が強い食材を使うと味噌汁自体の旨味も増すので、減塩しても美味しく満足度が高い味噌汁に仕上がります。最近は、トマト、アボカド、チーズを使った洋風の味噌汁も人気なので、興味がある人は試してみてください。また、ネギ、ショウガ、ミョウガなどの薬味を使うのもおすすめです。
味噌汁を具だくさんにすると、具材からたくさん旨味が出ます。減塩しても美味しい味噌汁に仕上がりやすいです。また、具だくさんにすることで必要なだし汁の量が減るため、味噌の量も減らせます。
野菜や海藻たっぷりの味噌汁にすることで、カリウムの摂取量が増えて塩分を排出しやすくなりますし、食物繊維による健康効果も期待できます。
新鮮な食材、旬の食材は、旨味や風味、栄養が豊富です。食材そのものの味を引き立てることで味噌汁も美味しく仕上がるため、減塩しやすくなります。
味噌の賞味期限は、商品によって3か月〜12か月と幅がありますが、保存状態によっては賞味期限より早く風味が落ちてしまう場合があります。本来の風味を楽しむためにも、開封した味噌は、なるべく早く使い切りましょう。また、開封した味噌は、空気が触れないようにラップをして冷蔵庫で保存してください。
なお、減塩タイプの味噌や液体タイプの味噌などの「加工した味噌」は、普通の味噌よりも風味が落ちやすいです。
味噌汁の塩分量を減らすことは減塩対策に役立ちますが、食事には主菜や副菜など「ほかのおかず」もありますし、味噌汁を使わない献立もあります。
減塩をするときは、以下のことにも注意しましょう。
すでに書いたように、減塩タイプの調味料や加工品に変えるだけで、塩分の摂取量を減らすことができます。調味料や加工品は、できるだけ減塩タイプの商品を選ぶようにしましょう。
しょう油やソースなどは食材に直接かけるのではなく、小皿に注いだものにつけて食べるようにしてください。食材に直接かける場合は、スプレータイプのボトルがおすすめです。また、1品ごとに塩味の強さを変えて味に変化をつけたり、オリーブオイル・スパイス・粉ミルクなどで風味付けしたりすると、薄味でも満足できる献立になります。
漬物や佃煮は、塩分量が多い食材です。まったく食べないようにする必要はありませんが、食べすぎには注意しましょう。お酒やご飯のお供に漬物や佃煮を食べる習慣がある人は、食べすぎや飲みすぎの原因にもなるので、とくに注意してください。
一般的に、外食や中食、加工品は塩分量が多いです。外食、中食の機会をできるだけ少なくして、自炊する機会を増やしましょう。自炊するときは、できるだけ自然の食材を使うようにし、加工品を控えましょう。
最近は、宅配サービスの普及により、外食と同じメニューが簡単に自宅で楽しめるようになりました。塩分量を把握したうえで食べるのであればかまいませんが、十分に注意してください。
うどんを汁まで飲むと、5.5g〜6g程度の塩分量になります。汁を飲まずに残すと3.0g程度になりますので、45%〜50%程度減塩ができる計算になります。
ラーメンは種類によって塩分量に差がありますが、カップラーメンをスープまで飲むと4.5g〜6.5g程度の塩分量になり、スープを全部残すと3.0g〜4.0g程度の塩分量になるといわれています。お店のラーメンでは、スープを全部飲んだときの塩分量が7g〜9g程度になることが多く、10g以上になることも少なくありません。
減塩する場合は、麺類の汁やスープは飲まないようにしましょう。ただし、麺類は麺自体にも塩分が含まれているうえに、麺が吸ったスープの塩分と具材の塩分がプラスされます。麺類に偏った食生活にならないようにすることも大切です。
減塩を成功させるためには、塩分量を数値化することが大切です。購入時と使用時に必ず食塩相当量を確認し、1食でどのくらいの塩分量になるか数値化して管理しましょう。
2015年に施行された食品表示法で栄養成分表示が義務化されたことにより、食塩相当量の表示もルール化されました。
以前はナトリウム量のみが表示されていたケースもありましたが、現在はナトリウム塩が入っている商品は⾷塩相当量の表示が義務化されています。ナトリウム塩が入っていない商品も、ナトリウム量の表示が認められますが、換算した⾷塩相当量を併記する必要があります。
つまり、商品に含まれる塩分量は、基本的には「⾷塩相当量」で確認ができます。ただし、ごくまれにナトリウム量しか表示されていない商品もあるので注意が必要です。⾷塩相当量が表示されていない商品は使わないことをおすすめしますが、以下の計算式で変換できますので、必要な場合は参考にしてください。
食塩相当量( g )=ナトリウム量( mg )× 2.54 ÷ 1000
味噌汁は、塩分量が気になりますが、アミノ酸、ビタミンB群、ミネラルなどの栄養が豊富です。具材をあわせることで栄養バランスを整えやすくなり、腸内環境の改善にも役立ちます。
味噌汁を1日3杯飲んでも高血圧には大きく影響しないという研究もあるので、味噌汁を飲むことを極端に気にしなくてもいいですが、推奨される1日の塩分量を守るには「味噌汁1杯の塩分量」を配慮する必要があります。
ほかの減塩対策とあわせて、毎日コツコツ続けることが大切なので、食事を楽しみながら減塩できるように、いろいろと工夫してみてください。
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