ロコモの予防におすすめの運動と食生活 ― 対策を続けるコツとは

2022/3/16

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

高齢になると、さまざまな要因で身体を動かしにくくなってくるものです。加齢に伴う身体能力の衰えはもちろんのこと、疾患やケガなどを引き起こすリスクも若い頃と比べて高くなり、やがて「ロコモティブシンドローム」という状態につながることがあります。今回はこの「ロコモティブシンドローム」の基本的な考え方やその原因、予防法について見ていきましょう。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
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ロコモとは ― 早めの対策が必要な理由

「ロコモ(ロコモティブシンドローム)」は日本語訳で「運動器症候群」と言い、身体を動かすために必要な運動器官に何らかの障害が起こり、「立つ」「歩く」などといった移動や運動が難しくなり、やがて寝たきりになるリスクが高い症状のことです。

骨や筋肉などの器官は20〜30歳代で量のピークを迎え、一般的にはおおよそ50歳以降からケガや病気・加齢による衰えなどをきっかけにロコモが始まることが多いですが、その後も適度な運動で刺激を与えたり、適切な栄養を摂取したりすることで良い状態を維持できます。

ただし、若い頃にきちんと身体づくりをしていないと、30〜40歳代から身体の衰えを感じやすくなり、ロコモも発生しやすくなります。平均寿命だけでなく、日常生活を制限されることなく自力で送れる「健康寿命」を延ばすためにも、ロコモ対策が欠かせません。

ロコモの原因 ― 運動器疾患と運動機能低下に注意

ロコモの原因には、運動器そのものに何らかの異常(疾患)が発生するものと、加齢に伴う運動器の機能低下があります。

運動器の疾患
運動器の機能低下
  • 四肢や体幹の筋力低下、体力や全身耐久性の低下、関節や筋の痛み
  • 筋短縮や筋萎縮による関節可動域の制限など

運動器の疾患の影響

運動器の疾患としては、腰痛や肩こり(加齢・筋肉の萎縮が原因)、脊柱管狭窄症(脊椎・椎間板の変形・黄色靭帯の肥厚などが原因)、骨粗鬆症(加齢によるカルシウム不足や女性ホルモンの減少が原因)などのほか、骨粗鬆症からの骨折などもロコモの原因となります。また、事故やケガによる四肢や体幹の麻痺は、広範囲にわたって運動機能が制限されやすいためとくに注意が必要です。

運動器の機能低下の影響

加齢によって運動器の機能低下が起こると、立つ、歩く、そのためにバランスを取る、指先の器用さ、反射神経や運動のスピード、深部感覚などが低下します。その状態を放置すると、やがて屋内外の移動はもちろん、トイレや着替え・入浴・洗面などの日常生活にも介助が必要になります。

身体が動かなくなると外出が億劫になり、家に閉じこもりがちになります。その結果、運動の機会がさらに減ってしまい、運動機能がますます低下する悪循環に陥ります。また、運動機能の低下は転びやすさなどにもつながり、ケガや骨折のリスクも上がります。

ロコモの予防対策 ― 簡単なトレーニングから始めよう

ロコモを予防するためには、毎日の運動習慣やバランスの良い食生活が大切です。日常生活の中で「階段を使う」「一駅歩いて通勤や買い物に行く」など、できるだけ身体を動かしましょう。また、以下のような簡単なトレーニングを取り入れることもおすすめです。

片足立ちでバランス感覚を取り戻す
  1. 転倒しないよう、テーブルや手すりなどにつかまって立つ
  2. 床につかない程度に片足を上げ、そのまま1分キープする
  3. 左右1分ずつを1セットとし、1日3セット行う
スクワットで下肢筋力をつける
  1. 肩幅より少し広めに足を広げて立ち、つま先を30度くらいずつ開く
  2. 膝がつま先より前に出ないよう、加えて膝が足の人差し指の方向に向くようにしながら、お尻を後ろに引くように身体を沈める
※スクワットができない場合は、椅子にこしかけて机に手をつき、立ったり座ったりする運動から取り組み始める

スクワットはある程度の筋力が必要な動作です。今まで全く運動習慣がなかった人が取り組むのは難しいかもしれません。スクワットをすることが難しい場合は、まずは椅子に腰かけて立ったり座ったりする動作を繰り返す運動から始めて、慣れてきたら机に手をつかずに行い、それも簡単にできるようになったらスクワットにチャレンジするという流れでトレーニングを進めると無理なくできるようになりますし、長く続けやすくなります。

ロコモの予防対策 ― 栄養バランスと継続が大切

骨や筋肉を鍛えるためには、骨や筋肉の材料になる栄養素も必要です。筋肉を作るためのタンパク質や、骨を作るためのカルシウム、さらにそれらを吸収しやすくするためのビタミン、筋肉を動かすためのエネルギー源などを摂取しましょう。高齢になると食事量が減り、野菜中心のあっさりとした食生活になりがちですが、肉や魚のタンパク質、乳製品からのカルシウムの摂取は欠かせません。

筋肉や骨に良い食事、そしてそれらの吸収を助ける栄養素、バランスの良い食生活を送るための習慣づけを以下にご紹介します。

筋肉に良い食事

筋肉を作る主な栄養素はタンパク質です。タンパク質は肉や魚のほか、乳製品や大豆食品に多く含まれています。特に、肉や魚などの動物性タンパク質には体内で合成できない「必須アミノ酸」がバランスよく含まれています。積極的に摂取しましょう。

筋肉組織は、十分な栄養の摂取と運動を繰り返すことで、約3〜6週程度と比較的短い期間で筋肉量や筋力のアップが期待できます。さまざまな食材に含まれるタンパク質を組み合わせて摂取するとともに、筋力向上作用があるとされるビタミンDを摂取するのもおすすめです。

骨に良い食事

骨は一度形成されたらずっと変わらないわけではなく、骨にかかる負荷と血中のカルシウム量に応じて常に破壊され、破壊された分だけ新たに作られています。そのため、骨を作る働きよりも壊す働きの方が上回ると、どんどん骨が弱くなって、やがて骨粗鬆症を発症します。

骨を作るためにまず必要になる栄養は、カルシウムです。75歳以上のカルシウムの食事摂取推奨量は男性で700mg/日、女性で600mg/日ですが、実際の摂取量はそれぞれ100mg/日少ないと言われています。牛乳や乳製品など、カルシウムを多く含む食品を意識的に摂取しましょう。

また、カルシウムは非常に吸収効率の悪いミネラルであり、効率よく吸収するには活性型ビタミンDが必要です。したがって、カルシウムと同時にビタミンDを摂れるよう、鮭やきのこなどの食材を乳製品と組み合わせて摂取するのがおすすめです。また、骨の材料としてはタンパク質、マグネシウム、葉酸、リンなども必要ですから、これらの栄養素も忘れないように摂取しましょう。

たとえば、主菜として「大豆製品や肉」、副菜として「緑黄色野菜、海藻類、小魚、干しエビなどの干物、乾物類」、おやつに「牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの乳製品、チョコレート」などを摂取すると、カルシウムの推奨量に近づきやすくなります。野菜や小魚をごま和えにするのもおすすめです。

骨や筋肉の生成を助ける栄養素

骨や筋肉を鍛えるためには、生成を助ける以下の栄養素も大切です。

骨の形成や維持を助ける:ビタミンK
納豆や青菜など
筋肉を動かすエネルギー源:炭水化物、脂質
米、パン、麺類、油、バターなど
タンパク質の働きを助ける:ビタミンB6
まぐろ赤身、かつお、赤ピーマン、キウイ、バナナなど

まずは毎日の食事を通して、バランスよくさまざまな栄養素を摂取することが大切です。そのうえで、タンパク質やカルシウムなど特定の栄養素を意識的に摂取するようにしましょう。

バランスの良い食生活を続けるポイント

ロコモを防ぐための食生活やトレーニングは長期間継続してこそ効果が現れるものであり、バランスの良い食生活も長期間続けることが大切です。モチベーションを保つために、以下のポイントに気をつけましょう。

生活リズムを整える
  • 不規則な食事リズムで体内時計(概日リズム)が崩れると、運動器のみならずさまざまな身体の不調を引き起こす
  • 食事の時間を含め、規則正しい生活リズムを作ることが大切
栄養バランスはゆるやかでOK
  • 栄養バランスを気にしすぎて、食べたいものが食べられないストレスを抱えては本末転倒
  • 1週間の中で栄養バランスを整えられるよう調整するぐらいの工夫で良い
食べたいと思える食事で栄養を摂取する
  • きちんと栄養を摂るためにも、食べたくなる工夫は重要
  • 和洋中華と献立に変化をつける、色の濃い野菜を使う、盛りつけや器を工夫するなど見た目で彩り豊かにするのもおすすめ
楽しく食べる
  • 家族や親しい人たちと楽しく喋りながら食べたり、外食やアウトドアで気分転換したりする
  • 食への興味や意欲を湧かせたり、保ったりするのに効果的

「加齢に伴い身体機能が衰えることは仕方がない」と思うかもしれませんが、十分な栄養と運動を組み合わせれば、日常生活に必要な体力を保つことは十分に可能です。むしろ、高齢だからと諦めてしまうことこそ、体力の衰えにつながってしまいます。毎日少しずつでも身体づくりをし、健康寿命を延ばしましょう。

おわりに:ロコモは食事や運動で予防可能。モチベーションを保つ工夫も大切

ロコモ(ロコモティブシンドローム)とは、運動器官が衰えて移動や運動が難しくなり、やがて寝たきりとなってしまうリスクが高い状態のことです。原因としては加齢に伴う運動機能低下のほか、運動器の疾患などが挙げられます。この状態は可逆的であり完全に防ぐことは難しいですが、トレーニングや栄養の工夫などで日常生活を維持して健康寿命の伸ばせる程度の運動能力を保つことはできます。長く続けるためにも、まずはできることから少しずつ取り組み始めましょう。

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