手足のしびれを引き起こす「糖尿病神経障害」の症状と治療法とは?

2017/12/14 記事改定日: 2020/10/20
記事改定回数:2回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

糖尿病は進行すると「糖尿病神経障害」という代表的な糖尿病の合併症によって、手足のしびれや痛みが引き起こされることがありますが、症状の現れ方にはどんな特徴があるのでしょう。この記事では、糖尿病神経障害の原因や治療法についての情報をお伝えします。

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糖尿病神経障害は高血糖状態で引き起こされる?

糖尿病神経障害は糖尿病の合併症のひとつで、高血糖が持続することによって起こる障害です。
高血糖状態が続くと血流が悪くなり、神経細胞に栄養が十分に行き渡らなくなるために、身体の先端に存在している末梢神経の伝達機能に異常がみられるようになります。

末梢神経には次の3つの神経があります。

  • ホルモンの分泌や内臓のはたらきを調整する自律神経
  • 痛みや温度などを感じる知覚神経
  • 身体の動きを指令する運動神経

糖尿病神経障害を発症すると、それぞれの神経に関連するさまざまな症状があらわれるのです。

糖尿病神経障害の症状の出方とは?壊死につながるリスクって?

糖尿病神経障害の症状は、痛みやしびれの症状と、それ以外の症状・困りごとに分けられます。

痛みやしびれの症状

糖尿病神経障害の症状は、痛みやしびれを引き起こすことが特徴的で、基本的には左右対称に症状が出ることが多いです。足先から膝、手先から肘と、体の中心に向かって広がっていきます。

神経障害が進行する、知覚神経のはたらきが弱くなる、感覚が鈍くなってくる、などの場合もあります。すると、傷を負っても気づきにくく、細菌に感染して細胞が壊死する可能性が高くなるので注意が必要です。最悪の場合には、壊死した部分を切断をしなくてはいけなくなる可能性があります。

痛み・しびれ以外の症状

不整脈や汗が増える

不整脈や汗をかきやすいなどの症状が起こる可能性もあります。汗をかく場合には、体の一部分のみに異常に汗をかくことがあります。さらに、尿意を感じずに排尿ができない「無緊張膀胱」も糖尿病神経障害の代表的な症状のひとつです。

神経の麻痺

糖尿病神経障害が進行していくと、神経そのものが麻痺してしまいます。そのため、熱いという感覚や痛いという感覚が失われてしまい、やけどなどをしても気づかないまま悪化してしまう可能性が高まります。その結果、潰瘍(かいよう)や壊疽(えそ)へ進行します。特に足は壊疽になりやすいのが特徴です。

低血糖への反応の薄れ

低血糖に対する体の反応が薄れるのも、糖尿病神経障害が進行した場合に起こる症状です。具体的には、血糖値を上げるホルモンが分泌されなくなった結果、手足の震えや動悸といった低血糖の警告症状がなくなり、すぐに意識を失う可能性があります。

消化管運動のリズムが乱れる

糖尿病神経障害の症状で、消化管運動のリズムが乱れることがあります。その場合には低血糖と高血糖を繰り返し、食欲がなくなり、血糖のコントロールが困難になります。

手足のしびれや痛みは治療で完治する?

糖尿病神経障害による手足のしびれや痛みは、基本的に薬物療法で治療していきます。
薬物治療では神経の過敏性や筋肉の緊張を抑える「抗不整薬」や「抗けいれん薬」の他、「消炎鎮痛薬」なども処方されます。

また、つらい症状のために気分が落ち込んでいて、そのことが症状に拍車をかけている場合もあるという考えから、「抗うつ薬」が処方されることもあります。

処方される薬の例
  • 抗不整薬
  • 抗けいれん薬
  • 消炎鎮痛薬
  • 抗うつ薬

薬物治療の他には、足や手をもんだり温めたりすることで症状が緩和することもあります。
ただし、神経障害で感覚が鈍くなっていると温度を感じにくいため、温めるときにはやけどをしないよう注意して行いましょう。

糖尿病治療の基本は血糖コントロール。進行防止にも重要。

糖尿病を発症すると慢性的な高血糖の状態が続きますが、高血糖状態を放っておくと合併症を発生する可能性が極めて高くなります。

糖尿病の合併症を発症・進行させないためには、血糖値コントロールを行うことがとても大切です。血糖値コントロールは主に、食事・運動・薬物療法によって行われます。

血糖コントロールのやり方

血糖値のコントロールは、以下の3つの方法によって行われます。

食事療法

血糖は食事から摂り入れられるため、糖尿病と診断された場合は第一に食事の見直しを行うことが大切です。食事制限の方法は重症度、年齢、身体活動レベルなどによって異なりますが、糖分やカロリーの摂りすぎに注意したメニューが医師や管理栄養士などから提案されます。

多くは外来で指導を受けていくことになりますが、それだけでは困難な場合は教育入院が必要になるケースも少なくありません。

運動療法

血糖値の上昇を抑え、血糖値が安定化しやすい身体を作っていくには適度な運動習慣を身に付けることが大切です。具体的には、一日20分以上のウォーキング・ジョギングなどの有酸素運動を週に3回程度から始めてみましょう。

ただし、神経障害などの合併症がある方は運動制限があるケースもあります。どのような運動をどの程度行えばよいかについては、医師や理学療法士などの指導に従うようにしましょう。

薬物療法

食事療法や運動療法のみで十分な血糖値の低下が見られない場合は、血糖値を下げる作用のある薬を用いた治療が必要になります。

通常は、インスリンの分泌を促す薬、インスリンの効きを改善する薬、糖分の排泄を促す薬、糖分の分解や吸収を遅らせる薬などを服用する治療を行い、これらの飲み薬でも十分な効果がない場合はインスリン自体を体内に注入する自己注射治療が行われます。

おわりに:糖尿病神経障害の手足のしびれは左右対称に出ることが多いのが特徴

糖尿病神経障害は発症初期に発見して適切な治療を行えば、神経機能を回復できる可能性もあります。適切な治療を早く開始した場合には薬物療法が一般的で、個人差はあるものの一般的には半年から一年ほどで症状の改善がみられます。糖尿病神経障害の症状を感じた場合はすぐに医師に診てもらうようにしましょう。

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