季節性うつ病は時期によって症状が違う?治療や予防はできるの?

2020/10/3

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

秋から冬、冬から春、夏から秋など、決まった時期に気分の落ち込みや体調の変化が現れる場合は、季節性のうつ病かもしれません。
今回は季節性うつ病の症状の特徴や考えられる原因について解説していきます。予防法や治療法についても解説していくので、早期対策に役立ててください。

季節性うつ病(SAD)の特徴は?

季節の変化に伴い、気分が落ち込んだり、憂うつな気分や疲労を感じるなどの「うつ症状」が現れることを季節性情動障害(SAD:seasonal affective disorder)といいます。近年、季節ごとにくり返すうつ症状がよく知られるようになったためか、わかりやすく季節性うつ病や季節うつと呼んだり、冬うつ、夏うつ、秋うつなど、季節にあわせて呼び分けることもあります。

日本をはじめとする「北半球の緯度が高めの地域」では、10月から11月くらいの「秋から冬にうつりかわる時期」に増えてくるため「ウインターブルー」と呼ばれることもありますが、夏にうつ症状が現れる「夏型季節性情動障害」のように、冬以外にもみられることがあります。

季節性うつ病の原因

季節性うつ病の原因は、まだ完全に解明されたわけではありませんが、以下のように季節のうつりかわりによる日照時間の変化が関わっていると考えられています。

夏型季節性うつ病の原因は、高温多湿な環境や室内外の気温差による自律神経の不調や、日光の浴びすぎ、脱水、栄養不足による疲労などが関わっていると考えられています。

また、冬から春のうつりかわることによる日照時間の増加や気温の変化、花粉の影響がうつ病を引き起こすこともあります。ただ、5月病は社会的な環境の変化によるところが大きいため、季節性うつ病とはしない考え方もあります。

こんな症状が出たら季節性うつ病かも?

季節性うつ病は、いわゆる「一般的なうつ病」と同じような症状が現れますが、非定型うつ病に似た特徴的な症状も現れます。代表的な症状として、以下が挙げられます。

一般的なうつ病と同じ症状
  • 気分が落ち込む、やる気が出ない
  • 集中力が落ちる
  • イライラすることが増える、常にイライラするようになった
  • 疲れやすくなり、元気がなくなる
  • 食欲がなくなる
  • 体を動かしたり、物事に取り組むのがおっくうになる
  • 以前は楽しめていたことが楽しめなくなる
  • 以前はうまくできていたことがうまくできなくなる
季節性うつ病特有の症状
  • 食欲が増す、過食になる
  • 睡眠時間が著しく長くなった(過眠)
  • いくら寝ても眠気がとれず、昼間に強い眠気を感じる
  • 精製パンやチョコレートなどの甘い菓子類など、高糖質の食べものへの欲求が著しく高くなる

夏型の季節性うつ病では食欲不振や不眠、気分の落ち込みなどの「一般的なうつ病」の症状が出やすく、冬型の季節性うつ病では気分の落ち込みや意欲の低下などに加えて過眠や過食の症状が出やすいといわれています。

冬型季節性うつ病の特徴
  • 10月から2月ころまで発症しやすく、10月から11月くらいの時期に増え始める
  • 気分が落ち込む、自己否定することが多くなるなど「うつ状態」になることが多い
  • 集中力の低下や無気力から、日常の家事や仕事に支障が出ることがある
  • 甘いものや炭水化物が多い食品を偏って食べるようになる
  • 眠っている時間が増え、日中にひどい眠気を感じることが増えた
  • 過食や過眠になりやすく、体重が増加することが多い
夏型季節性うつ病の特徴
  • 日照時間が長くなくなり始めた時期、暑くなった時期に増え始める(冬から春、春から夏の季節の変わり目や猛暑の時期など)
  • 日本の残暑や初秋の大きな気温差が環境要因になることもある
  • 冬型と同じく気分が落ち込む「うつ状態」になることも多いが、躁(そう)状態になることも少なくない
  • 動揺しやすい
  • 日光があたる場所で活動すると、状態が悪化することがある
  • 不眠や食欲低下が起こりやすく、体重が減少することが多い

これらの特徴はあくまでも「傾向」であり、夏であれ冬であれ季節に関わらず同じような症状が出ることもあります。
なお、季節性うつ病が長引くと、以下のようなトラブルを引き起こし、悪循環に陥ることも少なくありません。

  • 疲労感やおっくうさから、周囲の人達との関係がうまくいかなくなる
  • やるべきこと、取り組むべきことがあるのにできず、仕事や社会生活においての信頼を失う
  • 食べる量が増え、運動をすることもできないために、急激に太ってしまう
  • 上記のようなトラブルからストレスを感じ、さらにうつ症状が悪化する

時期に限らず、気になる症状に気づいたときは早めに専門の医療機関を受診し、適切な対策をとりましょう。

季節性うつ病の治療方法は?

季節性うつ病の治療では、うつ病の諸症状を緩和するための薬物療法とともに、認知行動療法と栄養指導が行われます。また、日照時間や概日リズムが影響するものに関しては光療法が行われることもあります。

季節性うつ病の薬物療法

季節性うつ病の治療では、光療法や栄養指導、認知行動療法が優先されることが多く、これらの治療で症状が改善されなかったときに薬物治療に移行するのが一般的です。

治療ではSSRIなどの抗うつ薬がおもに使われますが、うつ状態と躁状態をくり返す双極性障害がみられる場合は、抗うつ薬の使用が制限されることもあります。

光療法とは

5000〜10000ルクスの人工的な光を作り出す機器を使い、毎朝30分~1時間強い光を浴びる治療方法です。紫外線が含まれていないため、正しく使えば目や皮膚へダメージを与えるリスクが低く、そのほかの副作用もほとんどないとされています。

光は「体に当てる」のでなく「目に取りこむ」必要がありますが、目が開いている状態であれば光は取りこまれますので直視する必要はありません。

一般的には1週間程度で症状が緩和するといわれていますが、中断すると症状が再発することも多いため通常は2週間以上継続することになります。

※機器は必ず医師の指導のもとで使用し、設置方法や使用方法、使用時間、使用期間については医師の指示に従いましょう。

季節性うつ病の栄養指導

食欲低下できちんと食事を摂れていない場合は、たんぱく質・ビタミン類・ミネラルを十分に摂取できるバランスのとれた食事を摂るように指導されます。医師によっては、セロトニンやメラトニンの材料になるトリプトファンを含む食品をすすめられることもあるでしょう。

過食の症状がみられたり、糖質に偏った食事を摂っている場合は、食事制限の指導が行われます。また、適度な運動には抗うつ効果が期待できるため、体力的に問題がなければ運動の習慣化をすすめられます。

季節性うつ病は予防できる?

季節性うつ病の原因がすべて解明されたわけではなく、さまざまな要因がからみあって起こることもあるので、完全に防ぐことは難しいです。ただし、以下のような「日常生活の工夫」で発症リスクを下げることはできます。

栄養バランスのよい食事を摂る

近年は、5大栄養素に食物繊維を加えた「6大栄養素」をバランスよく摂ることが推奨されています。十分な量のたんぱく質やアミノ酸を摂取するために、肉や魚、大豆製品をバランスよく取りいれ、食物繊維やビタミン、ミネラルの不足を防ぐために野菜や果物も食べるようにしてください。

甘いものがやめられないという人は、糖質カット食品への置き換えでコントロールしてもいいでしょう。ただし、炭水化物を完全に絶つような極端な制限はしないでください

運動の習慣化

上記でも説明したように、適度な運動には抗うつ効果が期待できます。できれば朝日を浴びながらの運動が良いですが、習慣化することが大切なので、無理のない運動を無理のないスケジュールで行いましょう。

また、日差しが強い時間や高温多湿な環境での運動は、夏型の季節性うつ病を引き起こす原因になるので注意しましょう。

関連記事:リモートワーク最大の悩み、運動不足はどうやって解消する?

関連記事:特別な器具なし!騒音が出にくいおすすめの室内有酸素運動とは?

自宅や職場の「温度と光」の環境を整える

室内外の温度差が大きいと自律神経が疲れます。室内の適温は「夏は28℃」「冬は20℃」が目安です。エアコンやサーキュレーター、換気などでうまく室温を調整してください。

カーテンを開けたら日光を取りいれられる部屋を寝室にしましょう。朝起きたらすぐにカーテンを開け、朝日を浴びるようにしてください。就寝前にカーテンを少しだけ開けておき、朝日が入りこむようにしても良いです。

職場も日差しが入るほうが良い環境と言えますが、直射日光があたり続ける環境はあまりよくありません。カーテンやブラインドで調整したり、グリーンカーテンを使うなどして、光量を調整できるようにしましょう。

睡眠の質を高める環境を整える

うつ病の回復や予防には、質の高い睡眠を十分な時間とる必要があります。質の高い睡眠をとれるように、寝室・寝具の環境や食事やお風呂の習慣を見直しましょう。

関連記事:睡眠の質を高めるにはどんな対策をすればいいの?

ストレス対策

ストレスが溜まると心や自律神経が疲れやすくなり、うつ病を発症しやすくなります。気温の変化や環境の変化への耐性も低くなるので、季節性うつ病の予防の点でも良くありません。
ストレスはこまめに解消し、自分にあったストレス対策をいくつか持っておきましょう。

関連記事:ストレスがたまりすぎてつらいときにオススメの解消法は?

おわりに:決まった季節に気分が落ち込むなら季節性うつ病かも。予防対策をきちんととり、症状に気づいた段階で早めに相談を。

季節性うつ病は、日本では10月〜11月の「秋から冬」のうつりかわりの季節に起こりやすいですが、夏型季節性うつ病もあるため、どの季節も油断できません。また、うつ症状が季節によるものかどうかを一般の人が判断するのは難しいです。気分が落ち込む、イライラする、過食や食欲低下が起こるなどの「うつ症状」がみられる場合は、症状に気づいた段階で専門の医療機関に相談しましょう。
季節性うつ病の予防は一般的なうつ病や睡眠障害の予防対策にもなります。季節に関わらず、日々の生活に取り入れましょう。

関連記事

この記事に含まれるキーワード

セロトニン(32) 双極性障害(19) 季節性情動障害(3) メラトニン(17) 非定型うつ病(7) 概日リズム(5) トリプトファン(11) 季節性うつ病(2) 季節の変わり目(11) 光療法(2)